医局員の日常

京大麻酔科に所属する医師の活動の場は附属病院の手術部(中央手術室)、デイ・サージャリー診療部、集中治療部、ペインクリニックと多岐にわたります。それぞれの部門で活躍する医局員の日常をご紹介します。

手術部

卒後11年目になります。私は他大学を卒業後、滋賀県の市中病院で初期研修、続いて3年間の後期研修を受けた後、京大麻酔科に入局しました。1年間大学病院で勤務した後、大学院に進み4年間の研究生活を経て、2018年4月より京大病院で勤務を始めました。
私の現在の主な勤務場所は中央手術部です。無菌手術室2室、ハイブリッド手術室1室、MRI手術室1室を含む総計18室を有し、麻酔科管理症例だけで年間約4500件を超える手術が行われています。
担当する業務は日によって異なりますが、以下のようなものがあります。

開心術

京大病院では週に3~4件の開心術が行われています。
多くの場合、麻酔科専門修練医の先生や初期研修医の先生と一緒に2〜3人体制で担当します。重症の虚血性心疾患、胸部大動脈疾患、弁膜疾患、先天性心疾患と多様な手術が扱われており、豊富な経験を積むことができます。

経カテーテル大動脈弁留置術 (TAVI)

当院では201312月からTAVIを導入し、20177月には100例を超えました。高齢者や合併症のあるハイリスク症例に適応となることが多く、麻酔科医の役割は大きいと考えます。

覚醒下開頭手術

京大病院では意識下に神経症状を確認しながら脳腫瘍の摘出を行うことがあります。そのため、手術中いったん麻酔を醒まします。患者覚醒時には頭蓋内操作による嘔吐やけいれん、気道トラブルなどのリスクもあり、通常の全身麻酔とはまた違った管理が求められます。

臓器移植

やはり大学病院だけあって肺癌、食道癌、肝臓癌等に対する大手術が連日のように行われていますが、臓器移植のような特殊な麻酔管理が経験できる点も京大病院の大きな特徴です。肝移植症例数は日本で最も多く、当院で研修される先生方の多くは肝移植の麻酔を経験することができます。また肺移植も多く行われています。一般的な麻酔導入に耐えられないほど呼吸機能の低下している患者さんでは、導入時にECMOをスタンバイすることもよくあります。移植の麻酔は長時間になることも多いですが、緊張感とやりがいを感じながら取り組んでいます。

現在は、週によって異なりますが生体肝移植や開心術、覚醒下開頭手術の麻酔を担当することがあります。それ以外の日は様々な手術の麻酔をまんべんなく担当しています。

術前診察担当

京大病院では全ての麻酔科管理症例に対して麻酔科専門医による術前診察が行われることになっています。一日におよそ25〜30人の患者さんを診察することになります。各患者さんの手術、合併症等を考慮して術前指示を出したり、患者さんの状態について当日の麻酔担当医に申し送りをしたりします。リスクの高い症例について各診療科から受けたコンサルトに対応するのも術前診察医の業務のひとつです。

 当直

時間外手術への対応を行う手術室当直と、集中治療部の当直に分かれています。
現在、私は手術室当直を担当しており、だいたい月4~5回くらいずつ当直を分担しています。またこれとは別に緊急での移植手術に対応するため、月1回移植待機もしています。
一度も呼ばれず休める日から、複数の緊急手術や重症患者の対応に追われて一睡もできない場合までいろいろです。

京大病院中央手術部における麻酔管理業務の大きな特徴のひとつは、初期研修医の先生方が非常に多く、単に麻酔管理というだけでなく臨床麻酔科学教育という側面があるという点だと思います。1年間に60~70名の初期研修医の先生方に接するなかで、気道・呼吸・循環管理等の重要な知識・技術を可能な限り伝えていく事、できれば1人でも多くの研修医の先生方に臨床麻酔の面白さを知っていただき、麻酔科医という仕事に興味を持っていただく事を目指してやっております。

最近は麻酔科専門修練医の先生方も増え、また私のように23年の麻酔科専門研修を終え、麻酔科標榜医を取得した後に京大病院へ来られる先生方もおられ、麻酔科に活気をもたらしてくれるとともに、とても頼りになる存在です。

大手術や特殊な手術も多く忙しい職場ですが、多くの方々との出会いもあり、刺激とやりがいを感じながらやれる職場だと思います。

 

デイ・サージャリー診療部

デイ・サージャリー診療部では、日帰り手術を含めた全身麻酔管理を行っています。
対象となる手術は小手術が多いのですが、大学病院ゆえに麻酔管理に難渋する既往疾患を持つ患者さんも中にはおられ、”小麻酔”はないと改めて思いつつ毎日の麻酔を担当しています。
麻酔管理法としては、私が研修医の頃に教わった気管挿管を行った全身麻酔ももちろん行われていますが、術式との兼ね合いもあって少なく、むしろ超音波ガイド下末梢神経ブロックを併用した鎮静による麻酔管理がよく行われています。麻酔後回復室では患者さんが術後帰宅可能となるまで、または離床ができて病棟へ移動となるまでの期間の管理を麻酔科医が担当しています。
したがって「病棟で痛み止めを使ってもらってください」とか「明日くらいには吐き気はましになりますよ」という訳にはいかず、術中管理だけではなく術後管理にも重きを置き、安全はもとより患者さんの高い満足度が得られるよう注意を払って麻酔管理を行っています。
また、日帰り手術を成功させるには外科医や看護スタッフとの協調が重要で、「人と会話をするのが少なくて済むべく麻酔科医を選んだのに・・・」と少し思いながらも意識してコミュニケーションを円滑に行うように努めています。

また、以前から当診療部では学会活動や論文執筆を精力的に行っており、私もできるだけ時間を見つけて取り組んでいます。大学院時代に学んできた研究の進め方も随分役に立っています。

個人的には子供が二人おり、夫婦共の実家が遠方で夫は多忙な職種であるため、日々の仕事と育児との時間のやりくりに苦労することもありますが、当診療部は外来部門の所属ゆえに夜遅くまでの運営がされていないので、家庭との両立の面では大変助かっています。
また、病児保育室が当診療部の一つ上階に位置し利用しやすい場所にありますので、子供共々随分お世話になっています。

デイ・サージャリー診療部の初代の麻酔科責任者であった白神豪太郎先生の「現状に満足してはいけません。よりよい方向に進めるように努力です。」との言葉どおり、地道に研鑽を続けたいと思っています。

   

 

集中治療部

(とある日直の一日)今日は一日当直。日中は研修医の先生も2人いる。

朝全患者の血液ガスをチェック。呼吸器設定、貧血や電解質の是正を行う。研修医にオーダーしてもらっている間に、手早く患者の注射指示に目を通す。
カロリー調整や、CHDFの除水量、抗生物質の投与を確認する。ひと通り終わったところで、胸部ポータブル撮影をする。
技師さんに頼めばしてくれるらしいが、麻酔科管理症例では、自分ですることになっているらしい。

一人目が終わったところで、ICU日直PHSにcallがある。救急日直の先生からで、某内科の患者さんが病棟で急変し、気道確保困難だという。
とりあえず来て欲しいとのこと。Airway Scope持参でX階までおりる。
こういうとき焦ってもよろしくないので、あえてエレベーターでおりる。部屋に入ると、高度の肥満の患者で、マスクバック換気中だ。
SpO2は波形が乱れているが、80ないようだ。顎が埋もれていて、一見して気道確保が難しそうな感じである。
救急の先生は、“ちょっと難しそうなので、呼ばせてもらいました”とのこと。
こうなったら後にはひけない。今日は日曜日。自分以外には頼れるものはいない(実際には麻酔科の当直も別にいるのですが)と言い聞かせて、Airway Scopeをかける。
なんと声帯が真正面にみえる。やれやれ。このデバイスのおかげで、病棟にこうやって呼ばれたとき、随分気が楽になった。
挿管できなかった他のドクターも“こんないいものがあるんですねー”という。

さて挿管は終わったが・・主治医と話すとどうも敗血症性ショックとなっているらしい。
ICUに電話をかけ、ベッドを手配する。30分後に入室させることにして、一旦ICUに戻る。
カルテをひらいて病歴・・うーん長い。サマリーが長過ぎて読めん。とりあえず拾い読みする。今いっている注射をチェックしてプリントアウトし、これをICUの指示簿に入れ直さなくてはならない。
こういうとき手慣れた研修医の先生は本当にありがたい。
そうこうしているうちに患者入室。A-lineをとり、胸部レントゲン撮影。心臓エコーも手早く行う。CVははいっていたので、とりあえずはこれを使ってノルアドレナリン開始。主治医からは、腎機能が悪化しているので、場合により透析も・・と頼まれる。
うーんこの患者さんの内頸はちょっと使えなさそうだが・・とりあえずは様子をみる。

そうこうしているうちにまたしてもPHSが・・今度は某内科の日直の先生から電話。突然?酸素化が悪化した患者がいるらしい。挿管が必要なのでICUに入れて欲しいとのこと。
幸か不幸か今日は空床2つ。まだ入れる。と伝えたら、まだ何か言いたそうだ。よく聞くと、挿管もして欲しいと言われる。
再びAirwayScopeを手にまたX階までおりる。今度の患者さんは割合意識清明でずいぶんしんどそうだ。そのほうが挿管も手間がかかる。
とりあえず説明し、ちょっと寝ていただいてから挿管した。
あとで麻薬を入れておかないとfightingしそうだ・・またICUに電話をかける。やはり30分後に入室。さっきの繰り返しだ。今度の症例は、皮膚病変がありSpO2がひろえていないし、A-lineをとるのも大変そうだ。

そんなこんなで、指示をいれ、処方をし、検査が一段落するともうお昼をだいぶ過ぎている。まだ他の患者さんの採血やレントゲンの結果をみていなかった。
あれ、3号室の患者さんのCRPがまた上がっている・・レントゲンでも浸潤影がひどくなっている。気管支鏡したほうがよいか?あと今度入室した2人も栄養チューブを入れなくては、できれば幽門以遠に・・研修医にちょっとトライしてみて、だめなら呼ぶように伝える。
15分くらいやっていたが、どうも難しいらしい。かわってやってみる。うーんやはり難しい。まあ今日はこのくらいにしておくか・・

そうこうしているうちに夕方面会時間になった。1号室の小児の患者さんが、抜管後ひどく泣き続けている、それもキーという感じ。ご両親が心配しています。とのこと。
今日は主治医もいない。とりいそぎ1号室にむかう。こんなに泣くのはいままでになかったとおっしゃる。確かにこんな泣き方は他にはないかもしれない。
しかし、動揺をみせず、抜管後に一過性(この一過性というところをさりげなく強調する)の精神状態の変調をきたすことはままあることです云々...とご説明する。一応ちょっと安心された(ようにみえた)。

やれやれ。えらく疲れたが、まだ日当直の半分しか終わっていない。・・以下書くのも疲れたので省略

なお、これはとても忙しかった場合です。通常はもっと余裕がある(はず)です。

ペインクリニック

現在のペインクリニック外来でよくみられる疾患としては帯状疱疹神経痛・帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、failed back surgery syndrome(FBSS)、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、癌性疼痛が多いといわれています。
実際、外来を行っていて、帯状疱疹神経痛で痛みにもだえながら来られる患者さん、脊椎の術後に残念ながら痛みやしびれが残ってしまった(FBSS)患者さんが多いように感じます。
そこに時々、CRPSや三叉神経痛、なぞの慢性痛などの患者さんがこられます。痛みの原因としてはっきり診断がつくのはほんのごく一部で、診断的治療ということでブロックを行ったり、内服を行ったりすることも多いです。

基本的に外来前日あるいは数日前に受診される患者さんのカルテを見て、患者さんの状態や治療方針を確認しています。特に受診患者さんの人数が多いときはそれぞれの患者さんを思い出しながら、どうやったら予約時間通りに診察できるかも考えています。それほど多くないときは、ゆっくりお話を聞くことができることもありますが、基本的に忙しいです。

特に初診の患者さんはお話を聞いて身体所見をとるだけで1時間程度かかりますし、そこから処置を行うとなると1日中外来に滞在してもらうことになることもあります。

単純な痛みの方は少なく、経過が長く、基礎疾患がたくさんあったり、こじれた痛みの方が多いため、初めの何回かはなるべく時間をかけてお話を聞いたり診察をしたりしたいと思っていますが、、、理想と現実はなかなか一致しませんね。

次から次へと患者さんと話をして、所見をとったり、ブロック注射をしたり、カルテを書いたりしているとどんどん時間が過ぎていき、一通り診察が終わって気がつけば15時だったり16時だったりします。
どおりでお腹が空いたなあと思いながら遅めのお昼(既に夕方)ご飯を食べて、この分だと晩ご飯はいつ食べたらいいのかと考えながら外来診察室に戻って残ったカルテ書いたり、紹介状を書いたり、主科の先生と治療方針を議論したりしています。

痛みは古来より人々を苦しめてきました。

痛みをゼロにするような魔法の治療、薬剤がないのが現実で、歯がゆい思いをすることもあります。

一方で、お話を聞いたり、ブロックをしたり、投薬をおこなったりしていく中で、「先生に出会えてよかった」「痛くなくなったけど、先生の顔だけみにきたい」などと言われるのはペインクリニックでしか味わえない感覚だと思います。ブロック後「嘘みたいに痛くなくなった!こんなに動ける!」と涙ながらに喜んでいただけることもあります。私達ペインクリニシャンの医学的な知識、技術、そして患者さん自身の努力(運動等)を組み合わせて痛みと上手に付き合っていく方法を日々模索しています。

 

 

  

 

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