ガス状伝達物質がエネルギー代謝に与える影響

ガス状伝達物質は、生体内で産生される小さなガス状分子であり、代表的なものには一酸化窒素(NO)、硫化水素(H2S)、一酸化炭素(CO)がある。これらのガス分子は、脂溶性であるためレセプターを介することなく細胞膜を自由に透過でき、生体内で様々な生理活性を有する。これまでに虚血再灌流障害への抑制作用や抗炎症作用など麻酔科医にとっても興味深いものも含め、多くの研究者によってその生理・薬理学的作用が明らかにされてきた。

その中で、我々はガス状伝達物質が生体内でのエネルギー代謝に与える影響について研究をしてきた。我々は、H2Sがミトコンドリア呼吸鎖を抑制し低酸素下で活性化する低酸素誘導性因子1という転写因子発現を抑制することを報告した。これは、H2Sがエネルギー需要を低下させ生体内の低酸素応答に影響を与えたことを示唆する。他のガス状伝達物質についてもエネルギー代謝に関与するという報告が散見される。ガス状伝達物質がエネルギー代謝に与える影響について未だ明らかにされていないことも多く、これからの研究でその一端を少しでも明らかにしたい。

【文責:甲斐慎一】

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